東北大法科大学院2023 再現答案 刑法

ロースクール入試再現答案

※当記事は、あくまで再現ですので、誤り箇所が多数見受けられると思います。参考程度にご覧いただければ幸いです。訂正箇所については、是非コメントしていただければと思います!

第一 Yの罪責

1.Ⅹを脅そうとして、夜道では背後に気を付ける旨申し向けた行為に、脅迫罪(222条)が成立しないか。
⑴同罪にいう「脅迫」とは、相手方を畏怖するに足る程度の言辞を申し向けることをいい、これは構成要件要素であるから、一般人の感受性を基準に判断する。
一般人からすれば、悪態をつかれた上で、「夜道を歩くときは、背後に気をつけなよ。」という発言をされれば、何らかの危害を加えられるかもしれないと畏怖するのが通常であるから、これを満たす。
⑵そして、かかる脅迫的言辞は、Ⅹの「生命、身体」に対して、「害を加える旨を告知」しているといえる。
⑶よって、Yには脅迫罪が成立する。

2.また、Ⅹを殴打しようと、Ⅹの胸ぐらをつかむ行為は、人の身体に対する不法な有形力の行使として、暴行罪(208条)が成立する。

3.以上より、Yには、脅迫罪と暴行罪が成立し、両者は併合罪(45条前段)となる。

第二 Ⅹの罪責

1.ナイフを構えて、Yに「刺すぞ」、更には大声で「刺されたいのか」と申し向けた行為に脅迫罪が成立しないか。
第一と同様の規範に沿って検討するに、果物ナイフであっても一般人からすれば、大声で「刺されたいのか」と言われれば、通常畏怖するに足る程度の脅迫的言辞であり、実際に指すつもりがないことは同罪の成否に影響しない。
よって、Ⅹの上記行為は、脅迫罪の構成要件を充足する。

2.もっとも、Ⅹは、Yから殴られることを防ぐために上記行為に及んでいるから、急迫不正の侵害に対処するものとして、正当防衛(36条1項)が成立しないか。
⑴この点、自ら挑発的行為を成し、それによって相手が侵害行為に出る、といった自招侵害の場合においては、不正対不正の関係として、正対不正の関係を基礎とする正当防衛成立を制限すべきである。本問では、Ⅹは、Yが短気で怒って殴りかかってくるかもしれないことを予期しつつ、「態度が悪い」「育ちが悪い」「やめてもらってよかった」等と挑発的発言をしており、それによってYが暴行に出ているから、自招侵害の場合に該当する。
⑵自招侵害の場合、正当防衛のように特定の要件を定立することが類型的に困難であり、当該事案毎に評価的認定をせざるを得ないことが多い。従って、正当防衛の成立を認めるためには、防衛行為者の予期・過失の内容・程度、挑発行為と侵害行為の均衡、防衛の意思、防衛行為の相当性等諸般の事情を総合考慮して、防衛行為時において、かかる行為にでることが社会通念上正当とされる状況にあったか否かを基準として判断するべきである。
本問では、ⅩはYが短気で殴り得ることを予期していたにも関わらず、上記のような挑発的発言を申し向けており、過失の程度は大きい。確かに、Yが予想以上に激怒していたことはⅩにとって不測の事態であったが、殴られることを十分に予見していた以上、過失を肯定できる。また、Yは実際に殴るには至っておらず、Ⅹが未だ胸ぐらをつかむにとどまっていたのであるから、侵害行為が挑発行為を大きく超えるものでもない。そして、防衛行為の相当性については、武器対等原則を念頭に、侵害行為者と防衛行為者の年齢、性別、力量等を総合考慮して決すべきところ、確かにXは、Yより約40歳も高齢であり、身長・体格ともにYがⅩに優越している。しかし、かかる事情を考慮しても、Ⅹも男性であり、Yの具体的な身体能力が不詳である以上、素手に対して2mの至近距離で果物ナイフを構え、大声で「刺すぞ」と申し向ける行為が相当性を満たすとはいえない。

3.以上より、Ⅹには正当防衛が成立せず、脅迫罪が成立する。

第三 zの罪責

1.Aに対して虚偽申告をして、病院に同伴させた行為につき、偽計業務妨害罪(233条後段)が成立しないか。
⑴「偽計」とは、欺罔や誘惑によって相手方の利益に反する計画をいうところ、zは甲の評判を下げるべく、自作自演の洗剤混入を、あたかも被害者のように装ってAにその旨を申し向けているから、これにあたる。
⑵「業務」とは、一般私人の業務を指すところ、警察の公務は業務にあたるか。
この点、逮捕等の有形力を伴わない非権力的公務には、実力で妨害を除去する力がないばかりか、私人の業務とこれを区別するのは困難である。よって、非権力的公務は同罪の業務にあたる。本問のAの公務は非権力的公務であるから、これを満たす。
⑶そして、かかる「偽計」によって本来他の公務に避けたはずの時間・労力が「妨害」されている。
⑷よって、zには偽計業務妨害罪が成立する。

2.甲の商品に洗剤を注入し、警察を通して、報道させた行為につき、信用毀損罪(同条前段)が成立しないか。
⑴「信用」とは、社会における外部的信用を指すところ、コンビニにおける商品品質への信用は、社会においてその営業を継続する上で不可欠なものであるから、これにあたる。
⑵そして、上記の通り、自作自演の異物混入を報道機関に報道させているから、「歔欷の風説を流布」し、かかる「信用を毀損」したといえる。
⑶よって、zには信用毀損罪が成立する。

3.以上より、zには、偽計業務妨害罪と信用毀損罪が成立し、両罪は併合罪(45条前段)となる。

刑法についての所感

今年の刑法は、共犯もなければ、あるあるな財産犯ないという何とも奇妙な問題で、一方、それ聞く?みたいな罪名でてきてかなり動揺しましたね。脅迫、偽計、信用あたりの定義がかなりあやふやだったので、それっぽくまとめました笑。
特に、偽計業務妨害罪はお店に成立させるのか、警察に成立させるのかという点は迷いましたね、結局偽計は警察、信用はお店に成立させましたが、後から考えると、警察に偽計からのお店に偽計と信用毀損の観念的競合ですよね笑。完全にやらかしました。

あとは、自招侵害の点ですね。普通に正当防衛だと思って、防衛の意思の規範まで書いていたところで気づきました。アレこの人、挑発してるやんけ、もしや…、って感じで笑。
時間はなかったですが、既に書いていた正当防衛の規範をスラッシュで消して、めっちゃ急いで自招侵害の論証書きました笑。
正直今でも正解は分かりませんが、論証集では、自招侵害のケースは「特定の要件とするにそぐわない」的なこと書いてあったなーと思って、正当防衛の要件ではダメかなと思ったので。今思えば、60代のジジイvs20代の180越えの若人って、仮にナイフもっても相当性充たすのでは?と考えてしまいますが…。

あと、XYZの順に検討しなかったのは、単純に楽そうって観点によるものです笑。

いやぁにしても共犯のない刑法の問題って、よく稟議通りましたよね笑。

コメント

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